特集「ふくいに生きる。ふくいで活きる。」(2018年11月)

2018.11.25【特集】遠いインドの感覚を届ける 福井の小さな「実験室」(後編)

――前編では、インドでの生き方に魅了され、その「感覚を届ける仕事」がしたいと思われたところまで伺いました。結構、抽象的なものだと思うのですが、それが「布や工芸品の販売」という形に行きついたのはどうしてなのでしょうか。

 

インドで見つけた「感覚」は、インドの人たちの手仕事の中にちゃんと入っていると感じたんです。たとえばブロックプリント布(木彫のハンコでデザインを押して染めた布)の、そのズレやカスレの中に染めた人のおおらかさを見つけることができたし、ウッドブロックの癖のある線にも、手織布のゆらぎにも、なんとなくゆったりした「インドの心地よさ」が入っているように感じたんですよね。

 

 

――なるほど、目に見えるモノの中にちゃんと人の暮らしが息づいているのを、ご自身の感受性でキャッチされたんですね。そこから、輸入販売の仕事に着手された、と。

 

はい。まずはウッドブロックの工房で、自分のデザインしたウッドブロックを彫ってもらい日本に持ち帰ることにしました。それから毎年インドに1,2回行って、オリジナルデザインのウッドブロックやブロックプリントの布を工房でオーダーし、その布からお洋服や雑貨を作ったり、インドの手織りの布や工芸品などを仕入れてきて日本各地のお店さんと卸売や委託販売の取引をさせてもらったり、いろんな場所で展示会を企画して作ってきたもの、見つけてきたものを展示・販売したり。そんな感じで5年半になります。今では信頼できるインドの染工房の職人や布屋、私がインドに行けないときに動いてくれるスタッフなど、人との良い出会を重ね、徐々に生産体制を整えているところです。この仕事を始めて4年目に第一子が生まれたのですが、そこからは本当に現地スタッフがいないと仕事を進めてこられませんでしたし、出会いには非常に恵まれているなと感じます。

 

――お子さんがいると特に協力者の存在は心強いですよね。そういえば、旦那様のたいじさんも、今は一緒にインドのお仕事をされているんですよね。

 

はい。この仕事を始めて3年目に、たいじさんがそれまで勤めていたコンピューター関連の会社を辞めて、一緒に働き始めました。

 

――お店になっているこの物件も、お二人の手でリノベーションされたとか。

 

そうそう、購入したのは去年でして、住まい兼仕事場用にと。とても静かな場所で、町から程よく遠いのが気に入っています。もともと陶芸家さんの住まい兼工房だったのですが、そこに残っていたものを最大限に生かしつつ、また下地などは大工さんにお願いしつつも、できるだけ自分たちで手を動かして家づくりをしています。今は仕事の合間にウッドデッキを作っています。作りながら、考えながら、また作るというスピードが気に入っています。

 

 

――このお店の雰囲気と、商品と、人の雰囲気が絶妙にマッチしていて素敵です。「ここに買いに来る」ことが一つの価値になりそう。ちなみに、お仕事をされていて、いちばんやりがいに感じられるのってどんなことですか。

 

作ったものの反応をダイレクトに感じられることでしょうか。うまくいかなくて落ち込むこともありますが、それも含めて自己責任でやれていることで、自分の足で立って社会とかかわっている気がします。うれしかったことと言えば、オリジナルデザインの布に「生命の賛歌」という名前の布がありまして、これは命の事を考えてデザインしたものなんですが、この布で作ったお洋服を見て即決で買ってくださったお客様が「この洋服を着て入院します。手術に向き合う元気がもらえました」と言ってくださったことは、驚いたと同時にうれしかったです。

 

「生命の賛歌(手前)」

 

 

 

 

――それはすごくうれしいですね!

 

他には、仕事の時間を自由に組み立てられるので、遠くにいる家族が何か困っているときは、平日でも駆け付けられます。急に盲腸で入院した時や、産後の辛い時にしばらく近くに居てあげられることなど。さくらがきれいな時期は、たいじさんや福井の家族と一緒に「ちょっと午後から花見に行こうか」ってこともしばしば。

 

――家族・友人の一大事には駆けつける……さきほど聞いた「インド人の生き方」だ!(笑)。ところで、さきほどカフェの仕事がどうして苦しくなったのか今ではわかるということをお話されていましたが、そのあたりもう少し聞かせてもらえませんか。同じ「好きなこと」なのに、今の仕事とは何が違うんでしょう。

 

インドでの仕事は、真っすぐじゃないとできないんです。心にブレーキをかけたり、自分じゃない人、たとえばカッコイイ人とか、仕事のできる人とか、別の何者かになろうとしていると目の前の人とのコミュニケーションがうまくいかなくて、インドの心地よい感覚を見逃してしまうような気がするんです。だから、自分は自分のままでいいし、自分のままじゃないとできない仕事だと思っています。それに比べてカフェをやりたかった時は、憧れのカフェイメージがあって。それは、大人っぽくて、美しいカフェで。そういう、粗野な自分とはかけ離れたものになろうとしていたから苦しかったんだろうなと思います。ですから、「自分らしいカフェ」というものなら、いつかやってみたいとも思っているんです。粗野なカフェっていうのも、なんだか可笑しいですが(笑)。

 

――なるほど。自分と違うものになろうとしすぎて、苦しかった。これは結構、働き出したばかりの若い女性の中には、「私もそうかもしれないな」と思い当たる人がいそうですね。憧れを持つこと自体はいいことなんですけども、それで多少の無理が効く人もいれば、病気になっちゃう人もいるし、難しい。宜しければ、そんな悩みながら働いている女性たちに、何かメッセージをいただけないでしょうか。

 

もし、何か苦しいと思っていたら、自分が何に苦しいと思うか、何に心が動くかを感じて、心が動く方に動けたらいいな、と思います。動き続けていたら、いつか自分の道が見つかるかも。

 

――ツジさん自身、そうでしたもんね。

 

時間はかかりましたが(笑)。でも、心臓がドキドキするようなものに出会って、それをなんとか仕事にしたことで、超えなくてはならない壁が出てきたときや重要な判断を迫られたときにも自分を甘やかさずに乗り越えているような気がするんです。それに私のデザインを気に入って買ってくださるお客様や、協力してくれる一人ひとりに温かい気持ちやエネルギーをもらっているうちに、できない自分ばかりを責めていた時は見えなかった「出来ること」の扉がたくさん開いて、いつの間にか自分の足で立って社会と関われている実感があります。おかげさまでいつの間にか「幸せ」と思える生き方ができています。

 

 

 

――ちょっとずつ進んでいたら、いつの間にか、という感じなんでしょうね。そういえばdesign labo chicaという屋号ですから、ここはある意味「実験室」なんですよね。

 

はい。試行錯誤、実験の中から自分の答えが生まれると思っているので、実験室=ラボラトリーのラボにしました。最初から正解があるわけじゃない、ということでもあります。

 

――なるほど。非常に説得力があるというか、人生を通じて一貫した強いメッセージになっているなぁと感じます。あと、今日お話を伺っていて私は、人が一人で生きないこと、誰かと生きることの意味もすごく感じましたね。世の中便利になって、あまり他人と関わらなくても一応生きていけはしますが、働けない時期のツジさんを支えたたいじさんやそのご両親、インドで目にした人々の姿があって、心が動いて、そしてなんとか自分の道を見つけようとして頑張ったツジさんがいて。そういうものが折り重なって福井にこんな世界ができたことに何とも言えない素晴らしさを感じます。今日は本当にありがとうございました。年始からインドに一カ月行かれるとのこと、どうぞお気を付けて行ってきてくださいね!

 

はい!こちらこそ、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

【お店情報】

店名 design labo chica(布と雑貨のショールーム)

住所 福井県丹生郡越前町小曽原54-43-11
TEL 070-4222-1458

URL https://www.design-labo-chica.com/
https://www.facebook.com/design.labo.chica

※平日予約制。土曜営業。日曜定休。

※イベントなどで閉めている場合もございますので、ご来店前にweb等でご確認ください。

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2018.11.19【特集】遠いインドの感覚を届ける 福井の小さな「実験室」(前編)

――早速ですが、ツジさんは広島県のご出身ということで。実は「くらしくふくい」のこの特集で、ツジさんのような「Iターン」で福井に移住された方を取材するのは初めてなんです。どういった経緯で福井に来られたのでしょう。

 

今の旦那さんである「たいじさん」に広島の大学で出会い、彼を追いかけてきました(笑)。

 

 

――なるほど、追いかけて(笑)。タイミング的には大学を卒業する頃でしょうか?

 

いえ、違います。包み隠さずお話すると、私は大学生の頃、ひどい鬱状態に悩まされていて、人生最大の暗黒時代を過ごしていまして。結論から言うと、卒業はできなかったんです。

 

――そうだったんですか。

 

学びたくて入った芸術学部のデザインや工芸の授業にもまったく出られずに、留年したり休学したりして、復学するもやはり授業には出られず。そんな私を見て、同級生でちゃんと卒業して地元で就職していたたいじさん(当時は彼氏)が「福井においでよ」って呼んでくれたんです。それで、大学も中退して、中身スカスカのまま福井にやってきました。

 

――たいじさん、すごい包容力。かっこいい。

 

本当に有難かったです。そうやって「たいじさんの彼女」の状態で福井に来て、たいじさんのご実家に居候させてもらい、ちゃんと結婚したのは2年後です。その間、元気になったりまた落ち込んだりを繰り返しながら徐々に回復していたのですが、それを何も言わずに待っていてくれたお義父さんとお義母さんにも本当に感謝しています。集落に住んでいて、周りの目もあっただろうに、守ってもらっていたと思います。

 

 

――なんだかちょっと泣きそうになるお話です。ご家庭からして愛情深いんですね。話は戻りますが、そんな状態で福井に来て、頼る人はいても、自分の職業というか生きる道はまだ見つからないわけですよね。それはどういう風に探していかれたのでしょうか。

 

最初はちょっとしたバイトや派遣の仕事をつないでいたのですが、元気になってくるにつれて、「好きなことを仕事にしたい」と思い始めました。それで、カフェが好きだからカフェで働いてみようと思い、福井市の自家焙煎珈琲屋で働き始めました。カウンターに立って珈琲を煎れるだけでなく、お店のフリーペーパーを書かせてもらったり、お店の移動カフェ部門に携わったり、仕入れ額、販売価格、お手伝いさんの給料なども考えながら働いていましたので、大変だったけれども本当にいい経験でした。

 

――へぇ、一つの店でかなり幅広くお仕事を経験されたんですね。

 

はい。あと、同時に屋台の営業許可を取り、時々イベントなどでコーヒーだけの小さな移動カフェをやっていました。これは、自分の店として。

 

――すごい、楽しそう! というか、聞いていると、とてもアクティブな印象を受けます。

 

楽しかったです。でも、だんだんまた苦しくなってきてしまったんです。なぜ苦しく感じるのか原因もわからないまま、イベントにも出たくなくなってきてしまい……。「好きなことを仕事にすれば人の役に立てて、自分も幸せにいられると思ったのに、ちがうの?」「自分はどうやって生きていけばいいんだろう」と、悩む日々でした。

 

――なるほど。カフェ自体、好きは好きなのに、何かが違うと思い始めた。「頑張りすぎた」みたいなところもあったんですかね。

 

そうでもありますし、また今は別の解釈をしているのですが。悩みの渦中にいた当時はいくら考えても答えが出なかったので、旅に出て冷静に自分を見つめなおしてみようと思い、それで渡ったのがずっと行きたいと思っていたインドでした。

 

――インド。私は行ったことはないですが、非常に面白そうな国ですよね。

 

はい。建築、宗教、芸術、音楽、哲学、数学、料理、手仕事……インドはどんな分野でも深い歴史があって、非常に面白い国なんです。そういう国を旅したら、私は何に出会うのかなと。もし私が本当にカフェをやりたいと思うなら、インドで料理と出会うのかなぁ、なんて。

 

 

――ワクワクします。何に出会ったのでしょう?

 

料理、じゃなかったんですよ。インドを旅していて、心臓がドキドキするくらいに私の心が動いたのは「村の地面に近い生活」や「人間らしい生き方」、そしてインドの人たちが作る「手仕事の工芸品」だったんです。

 

――生き方そのものとは、具体的にはどういう感じなんでしょう。

 

神様を大事にし、祈るインドの人たちは、毎日を真剣に生きていたし、染の村では冷たい水の中で布を洗う人たち、土の上に布を干す人たち、ひたすら木のハンコをトントントンと押す人たちの、無心の仕事ぶりに感動しました。独立の父で手仕事復興に尽力したガンジーの話をするインドの人たちの目が輝いていた事は忘れられません。それから、家族や友達の一大事には仕事そっちのけで飛んでいき、喜びも悲しみもシェアしあう生き方を素敵だと思いました。日本で「あれも違う、これも違う」と言って、自分や自分の仕事のことばっかり考えていた私という人間の小ささに気づけたし、幸せに生きるためのヒントをこの国でたくさん見つけた感じがしました。そのとき、「たくさんの気づきをくれるインドを仕事にしたい!」「日本で私と同じように苦しい思いをしている人たちに、インドのこの感覚を届けたい!」と強く思いました。

 

――そこからツジさんの人生をかける仕事へとつながっていくのですね。さて、ここからdesign labo chica設立に至るまでと、設立後のお話は後編でじっくり伺うことにします。

 

 

【お店情報】

店名 design labo chica(布と雑貨のショールーム)

住所 福井県丹生郡越前町小曽原54-43-11
TEL 070-4222-1458

URL https://www.design-labo-chica.com/
https://www.facebook.com/design.labo.chica

※平日予約制。土曜営業。日曜定休。

※イベントなどで閉めている場合もございますので、ご来店前にweb等でご確認ください。

 

 

 

(取材・執筆 吉田郁)

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