みなさんは、工場野菜と聞くと、どんな印象でしょう?
最新のテクノロジーで、科学的な反応により合成された、人口の野菜を想像するでしょうか?
遺伝子操作や放射線など、人体に悪影響のある技術を使った野菜でしょうか?
とにかく、なにやらよくわからない、正体不明のものに思われるかもしれません。
今回は、そんな謎に包まれた工場野菜についてお話していきます。
結論からいってしまうと、工場野菜とはハウス栽培の発展版、というだけのことです。
種は普通の種屋さんの種を使い、成長したものを収穫しています。
植物自体に、上に挙げたような怪しげな加工を施すということはありません。
植物工場で育った野菜は、なんの変哲もない、ただの野菜なのです。
むしろ、なぜ、ハウス栽培でできそうなことを、わざわざ植物工場で栽培するのでしょう?
植物工場にはお金がかかります。電気代もかかりますし、エアコン代も水道代もかかります。
高いお金をかけてまで、なぜ植物工場で、野菜を栽培しているのでしょう?
今日は、それを解説していこうと思っています。
植物工場で野菜を作るメリットは、大きくわけで二つあります。
一つ目は、農薬なしで野菜を作れるという点です。
そもそも、なぜ野菜には農薬が必要なのでしょう?
野菜を大きく育てるには、ご飯(肥料)がいります。
しかしながら、このご飯は野菜だけでなく、土に住んでいる微生物や虫、菌などの食糧にもなるのです。この虫たちがご飯を食べることで活動が活発になり、野菜を食べつくしてしまったり、病気にしてしまったりするのです。
なので、農薬(殺虫剤)を撒くことで、虫たちの活動を制限してやる必要があるのです。
農薬と肥料は、切っても切れない関係なのです。
しかしながら、工場で野菜を作る場合は別です。
工場の中は完全密閉され、衛生的な作りになっています。
虫や微生物、菌がいません。栽培方法も清潔な流水を使った水耕栽培になっています。
ですので、野菜が虫や微生物に侵されることなく、衛生的にスクスク育つことができるのです。
無農薬栽培というのは、いかに菌や微生物の働きを抑えるかで出来が決まってきます。
土耕の場合、すでに微生物がウヨウヨいる土壌を使って栽培するわけですから、非常に難易度が高いのがわかると思います。
空腹の犬と、骨の取り合いをするようなものです。
しかも、先に犬が骨を口に咥えた状態からスタートします。この骨を、無傷で取り返すのが、農業なのです。
無農薬栽培は、いわゆる犬の力を弱らせるお薬なしでやっているわけですから、本気の空腹の犬と戦わなくてはいけません。本当に頭が下がる思いです。
その点、工場野菜というのは、犬、つまり菌や微生物、虫が存在しません。
物理的にそれらをシャットアウトしているので、安全に野菜を作ることができるのです。
そして二つ目は、時期を選ばずに安定して野菜を作れるという点です。
野菜には、育つ環境というものがあります。
暑い夏にはほうれん草が育たず、寒い冬にはキャベツが育ちません。いわゆる旬というやつですね。
しかしながら、工場内の温度を一定に保つことで、旬を作り出すことができるのです。
それだけではなく、雨風もシャットアウトすることができます。
雨風もまた、野菜に大きなダメージがあるのは、みなさん知っていますか?
野菜はとても弱く、すぐ傷がついてしまいます。
強い風で土埃が舞い上がれば、野菜に突き刺さってしまいます。雹や霰などもそうです。
冬は大根の旬だ、なんて思っているかもしれませんが、雪が降ってしまうぐらい寒くなると、大根は出荷できなくなります。
空から降り注ぐ雹や霰が、大根に突き刺さり、売り物にならなくなってしまうからです。
硬い皮に覆われた大根でさえこうですから、柔らかい葉物などの被害は相当にあります。
寒さが厳しい地方では、冬は、屋根のあるハウス栽培でしか、野菜が育てられないのです。旬とか以前に、物理的に栽培が無理なのです。
この点、工場野菜は、外の環境の変化による被害を完全にシャットアウトすることができるのです。
実は、無事に出荷された野菜でも、雨風にさらされていると、必ず細かな傷がついています。
野菜が傷みはじめるのは必ず外側からなのですが、実はその時傷ついた細胞が腐食し、広がっていくからなのです。
工場野菜は日持ちがいいというメリットもあるのですが、それは無傷で出荷されるためなのです。
いかがでしたでしょうか?
工場野菜、食べてみたくなりましたか?
現在、工場野菜の数はまだまだ少ないです。莫大な設備投資が必要で、かつ電気代などランニングコストもかかるため、栽培できる資本力のある農家さんは限られています。
ですが、昨今の環境の変化や土壌汚染、農薬問題などをクリアするための一つの手段として、注目していきたい分野でもあります。
そのため、工場野菜に関する事柄と、その周辺の問題をできるだけ説明してみました。
工場野菜を通じて、農業そのものに対する関心が、少しでも広がればいいなと思っております。