最初に断っておきます。私は福井の野菜が好きです。
旬になれば福井の野菜をバンバン販売しておりますし、福井の野菜が美味しいのは、たぶんこのコラムを見てくれているみなさんよりも、十分に知っています。そういう自負はあります。
しかしながら……。
私は八百屋さんですので、市場に顔を出します。
そこでお取引のある仲買業者様とお話をします。
すると、彼らは口をそろえて、こう言います。
「福井県産の野菜は美味しくないので、やめたほうがいい」
と。
げんに、スーパーに並んでいるのは、ほとんどが県外産の野菜です。
「えっ、福井って、野菜あんまり作ってないの?」って思うぐらい、スーパーさんはほとんど県外産に頼っています。
どうですか? スーパーさんでいつも野菜を買っている方なら、わかると思います。
また、せっかくの福井県産の野菜が並んでいたとしても、どうですか?みなさんあえて買いますか?
八百屋テクテクにお買い物に来てくれるお客様とお話した際、お客様から、
「越のルビーとかスーパーで買っても、美味しくないんだよね」
とよく聞きます。
別に、スーパーさんが悪いわけではありません。
お客様のおっしゃるとおり、越のルビーそのものが美味しくないんです。
とても良心的で真面目で勉強熱心な、トマトの仲買人さんがいます。
その人から越のルビーを買おうとしたとき、私に正直に言ってくれました。
「私、越のルビーを美味しいと思ったことないです」
続けて、「越のルビーよりも美味しい他産地のトマトが、もっと安く手に入ったんですけど、いかがですか」と……。
私もまた、彼の話を否定しませんでした。
最初の話と矛盾しますが、私も、福井県産の野菜の弱点も知っています。
彼らがそう話をする事情も、よく理解できます。
なんでや!なんで福井の野菜が美味しくないんや!っていう話なんですけど、
理由は簡単で、美味しい野菜が欲しいと思っている方が、福井に少ないからなんですね。
みなさん野菜のお買い物はだいたいスーパーさんだと思うんですけど、
そこでだいたい満足しちゃいますよね。ほうれん草はどの産地であってもほうれん草の味がしますし、大根もキャベツもトマトもそうです。
「どんな産地であろうとも、野菜の味がして安けりゃそれでいいわ」
そんな感じだと思います。
そういう状況の中、農家さんとしては、どうすべきでしょう?
「ヨーシ! いっちょ美味い野菜を作って、食べてくれる皆さんを笑顔にしてやろう!」と情熱を燃やしてくれるでしょうか。燃やしませんよね。
「美味しい野菜を作っても、だぁれも評価してくれない……だったら普通でいいや……」
となります。
「なんかこの品種使えば、高く売れるらしいぞ。よし、これで一儲けしてやろう。少ない労力で大量に栽培できるような方法を教えてくれ。えっ、その栽培方法だと味が損なわれる? いいよ別に。味なんて誰もわかりゃしねえよ……」
と、最悪な場合、こういうことになるのです。
先ほどの越のルビーの例でいうと、越のルビーっていう美味しい品種が開発されて、県も一生懸命アピールしてくれたおかげで、越のルビーはブランドとして認知されるようになりました。
当然買取価格はなかなかのものです。
農家さんは、せっせと越のルビーを栽培しはじめました。
と、ここまでは良かったのですが、栽培する農家さんも一枚岩ではありません。
味を犠牲にしてでも大量に作る農家さんが得をするという状況になり、真面目に美味しく作ろうとする農家さんは、越のルビーから撤退していきました。
悪貨が良貨を駆逐していったのです。
また、この状況に一般の消費者からはほとんど声があがりませんでした。
越のルビーの品質に、消費者のほとんど誰も興味がなかったからです。
結果、「越のルビー? いうほど美味しくないな……」というのが、じわじわと広がっていって、今に至るというわけです。
青果物を取り扱っている仲買業者様はもちろん、福井の青果小売業にとっても、「越のルビーはあんまり美味しくない」というのは、今や共通認識となっています。「ブランドだし、買っていく人もある程度いるから、とりあえず品ぞろえはするけど……」そんな認識でいます。
今回は、越のルビーを例えに出しましたが、どんな農産物にも起こりうる状況ですし、現在進行形で起こっている状況です。
このままでは、美味しいものを作ろうとする農家さんが辞めていき、効率を優先した農家さんが生き残っていくでしょう。
しかしそれは自分の足場をなくしていくことと同じで、足場がなくなれば、結局全員もろとも落ちていかざるをえなくなります。
福井のみなさんは、せっかく美味しい野菜を作れる土壌がありながらも、野菜を他産地に頼らざるをえなくなる、という状況になります。というより、今がその状況です。
今、必要なのは、みなさんの、美味しい野菜を求める声だと思うのです。
美味しい野菜が欲しいよ、もっと作ってよ、と、農家さんに声を届けることだと思うのです。
ここで露骨な宣伝をしちゃいますが、八百屋テクテクは、そんな農家さんの状況、ひいては福井の農業と美味しい野菜を、なんとか守るために開業しました。
八百屋テクテクとお取引をしてくださっている農家さんは、みんな「美味しい野菜を食べてもらいたい」という気持ちが強い農家さんばかりです。
こういう農家さんが評価されないと、前に進んでいけないと思うんです。
八百屋テクテクに一度足を運んで、食べてみてください。
めっちゃ美味しいです。
美味しかったら、また買っていってください。その際、「美味しかった」と一言いただけますと、私も農家さんも、とてもうれしいです。
農家さんも嬉しいですし、お客様も美味しい野菜が手に入りますから嬉しいですし、福井の農業を守るために八百屋テクテクが役に立ったと思えます。
みんなハッピーになれます笑
このように、八百屋さんを利用するというのは、とても尊い行為だと思うので、このコラムを読んで福井の農業に一役買おうと思った方は、ぜひ、八百屋テクテクに来てくださいね。
一緒に野菜のこと、お話しましょう!
あっ、肝心なことを言い忘れていました。
八百屋テクテクの越のルビーは、腕のいい農家さんが手塩にかけて育てているので、めっちゃ美味しいです笑