――最初に、これまで本特集では職業を通じて輝いている福井の女性を中心にご紹介してきたのですが、今回は「職業を通じて」という枠はちょっと取っ払いまして、「鯖江市が好きで好きで仕方ない一人の女性」をご紹介したいと思います。中本さんは今年の新卒でもあり、とびきりフレッシュです。さて、鯖江が好きな人……ではありつつも、ご出身は坂井市なんですね。
はい。福井高専に進学したのを機に寮生活になり、そこから鯖江に住み始めました。
――なるほど。そして、中本さんは鯖江市役所JK課の第一期生だと伺っているのですが、いつ頃、どういうきっかけで参加することになったのでしょうか?
JK課には、高専の3年生の一年間参加しました。きっかけは、一言でいえば就活を意識したんです。それまで学校と寮の往復だけで、学校の敷地の中だけでほとんど生活が完結してしまっていて、このまま外の世界を知らないままで就活に入っていってしまってもいいのかなという思いと、単純に就活にプラスになるような活動実績が欲しいなという思いがありました。
――17,8歳の頃って、不安もたくさんあるし、一度外の世界に出て自分の頭で考えてみたくなりますよね。中本さんはJK課をきっかけに日常の外に踏み出してみたということですが、どんなことが待っていましたか?
待っていたのは、まず、すさまじい批判でした。
――批判ですか。
第一期生、つまり発足のタイミングだったので、記者会見をしたんです。その模様は新聞やニュースで大きく取り上げてもらいました。でもそれを受けてネットが炎上して。「JKという名称は良くない。変えろ」「役所がそんなことしていいのか」というものから、個人の名前を出して「〇〇という子は可愛い」とか逆に「可愛くない」とか……。市役所にも毎日100件くらい電話が殺到したそうです。
――うわぁ……。まぁ容姿をどうこう言うのは論外として、たぶんJKという名称が一部の人の気に障ったんでしょうね……。でも、若い人が町づくりに参加するっていうことそのものを批判できる人はいないと思うんですけどね。本質を見てほしい感はありますよね。今更ですけど。
正直つらかったです。こんなことになるとは思わず、入ったことに後悔しました。でも、あのときにメンバーたちが「この状況を見返してやりたい!」と強く思い、一致団結したのは良い思い出なんです。
――批判が逆に、やる気に火をつけたわけですね。
はい。そこから、ピカピカプラン(ゴミ拾い活動)や、パティシエとコラボしてのケーキ開発、IT企業社長と一緒にアプリ開発、それ以外にも鯖江で活躍されている様々な大人と一緒にコラボして活動しました。基本的に、私たちがやりたいことに対して大人がバックアップしてくれて具現化していく感じで、ゆるい雰囲気で。会議と言いつつ、市役所に行ってお菓子食べて喋っているだけ、っていうことも(笑)。
ピカピカプランの様子。ハロウィンの時期だったため、仮装して街を清掃した。
――心ない批判に負けずに成果を出して、めちゃくちゃエライ。でも、活動を聞いていると随分楽しそうですね(笑)。
JK課は、「まちの人が喜ぶことを考えよう」ではなく、「女子高生がまちを楽しむ」ことを主眼においた活動なんです。だからそれでいいみたいです(笑)。
――イイなぁ……。批判にさらされて始まりつつも、JK課はこの6年間の地道な活動とゆるく楽しく継続していく雰囲気が評価されて、いろいろな賞をとり、今ではすっかり鯖江市民にも好意的に認知してもらえるようになったわけですよね。聞くところによると、今参加してくれる女子高生たちも、動機は「楽しそうだから」というのが多いみたいですよ。有名になっても高尚になっていかないのがいいところだなと思うんですが、それもある意味「JK」というカジュアルなネーミングのおかげかもしれないですね。さて、中本さんが活動を通じて感じた「鯖江の良さ」ってどんなところですか?
いちばんは、鯖江市民が鯖江を大好きなところだと思います。結局私も、「鯖江が大好き!」な人に囲まれて7年の学生生活を過ごすうちに、気づけば鯖江が大好きになってしまっていたという部分が大きいので(笑)。でも、もう少し掘り下げるなら、鯖江市民の「鯖江が好き」を生み出す根底にあるキーワードが“ゆるさ”だと思っていて、誰のことも排除せず、町づくりの活動なんかも老若男女ごちゃまぜにやっている。そういう感じだからこそ、どこにいっても誰にとっても居心地のいい場所になっているのではないかなと思います。
――ゆるさが魅力。いいですね。「地元への強い愛着」って、反転して「保守性」とセットになる傾向があると思うんですが、鯖江では排除しない「ゆるさ」がセットになっているというのは興味深いところです。ちなみに中本さん的に、JK課に所属して自分自身が変わった部分はありますか?って、なんか面接の質問みたいで申し訳ないですけど(笑)。
JK課に入って、これまでぼんやりと学生生活を過ごしてきた中では出会うことのなかったたくさんの大人に出会って、視野がすごく広がったことです。こういう生き方・働き方があるんだと知ることが、将来の選択肢を増やすことにつながったと思っています。今の学生の方たちにも私と同じように、「いろんな生き方があるんだ」と知るきっかけを作り、選択肢がたくさんあることを伝えてその中から自分の進みたい道を見つけていってもらえたらなと思っていますし、私自身も常に視野を広く持てるよういろんな人と出会っていきたいと思っています。
――確かに、学校の中にいるだけだと、直接知り合える大人のサンプルってものすごく限られますもんね。そんな状態から「さあ、就活しなさい」って言われても、何が自分に合うのかもわからないし。そういう課題を解決するために、今、中本さんはインターンコーディネーターというお仕事をされているんですね。つながりました。
就活に迷える学生のために、という部分ももちろんそうですが、私自身が「人と人とをつなぐ」ということの本質に興味があるんだなとわかった、という感じですね。あと実は、現職のakeruの代表とも、JK課卒業後、引き続き鯖江市で地域の活動をしていこうと思い参加した「ゆるパブリック」で知り合ったんです。卒業する二年前に内定をいただいて、そこから卒業するまでの間も一緒にお仕事させてもらっていました。その期間を通じて自分の将来の姿や理想の働き方を見つめなおし、目標とする姿が代表だったので、卒業後もここで仕事をしようと決意することができました。
――すごい。結構多くの人が、就職してみて初めてそういう「生き方・働き方」について深く考えて、やっぱりこうじゃないわと言って辞めて行ったりするんですけど、そのプロセスを卒業前にやっちゃったんですね。アクティブでありつつ、結果的にすごくしっかりしていて、手堅い。
では最後に、福井で働く女性たちに、中本さんから何かメッセージをお願いします。
中高大学生が、将来のことを考えた時に、「こんな人になりたい!」と思ってもらえるような大人になれるように頑張りましょう!
――楽しく生き生きと生きる背中を見せてあげたいですね。行動すること、変化すること、人に出会うことのすばらしさは、中本さんを見ているとそれだけで伝わってくるものがあります。今日は本当にありがとうございました!
(取材・執筆 吉田郁)